
業務用温度計は、用途や測定対象によって多種多様な種類が存在します。
この記事では、アナログ、デジタル、非接触といった主要な温度計の種類と、それぞれの詳細な特徴、基本的な測定原理を分かりやすく解説します。
1. 温度計の主な種類と特徴
温度計は、測定対象や使用環境、必要な精度によって多種多様な種類が存在します。大きく分けると、測定対象に直接触れて温度を測る「接触型温度計」と、離れた場所から温度を測る「非接触型温度計」に分類できます。ここでは、それぞれの代表的な種類と、その特徴についてご紹介します。
アナログ温度計の種類と特徴
アナログ温度計は電源不要で視覚的に温度を読み取れ、特定の環境下で安定した測定が可能です。主な種類は3つあります。
①液体膨張式温度計(ガラス管温度計):ガラスでできている毛細管の中に、水銀やアルコール等の液体(感温液)を封入した温度計です。主に研究室や食品工場で使用されることが多く、安価で高精度ですが、壊れやすいのが特徴です。
②バイメタル温度計:温度が上昇すると、金属が膨張し、曲がる事で指針を動かす温度計です。空調やオーブンなどで使用され、壊れにくく安価ですが、応答性が遅いのが特徴です。
③圧力式温度計:気体や液体の圧力変化を利用して温度を測定する装置で、主に工業プロセスなどで用いられています。
デジタル温度計の種類と特徴
デジタル温度計は、電気信号をデジタル表示に変換し、高精度で多機能な点が特徴です。こちらも主な種類は下記の3つです。
①熱電対温度計:温度差が生じると、熱起電力(電圧)が発生し、この電圧を基に温度を測定します。工業炉や食品内部温度測定に用いられ、高温から低温まで幅広い温度範囲の測定が可能で、応答も早く耐久性にも優れています。
②測温抵抗体温度計(Pt100など):金属の電気抵抗変化を利用し温度を測定するセンサーです。高精度で安定性が高く、精密測定やHACCP対応工場で活躍しています。
③サーミスタ温度計:半導体の電気抵抗変化を利用し温度を計測するセンサーです。高感度で小型のため、狭い範囲での高精度測定に適しています。価格も安価で、体温計や家電製品などに使われています。
非接触温度計の種類と特徴
非接触温度計は、測定対象に直接触れることなく温度を測るため、衛生面や安全性が求められる場面で特に有効です。主に物体から放射される赤外線を検出して温度を算出します。
主に、食品の表面温度計測や電気設備点検、体温測定、設備診断などに使用されています。
2. 各種温度計の基本的な仕組みとは
温度計は、種類によって異なる物理現象を利用して温度を測定します。前述のように、測定対象に直接触れて温度を測る「接触型温度計」と、離れた場所から温度を測る「非接触型温度計」があり、それぞれに独自の測定原理があります。
接触型温度計の測定原理
接触型温度計は、センサー部が測定対象の物質に直接触れることで、熱の伝導を利用して温度を検出します。主な接触型温度計の測定原理は以下の通りです。
熱電対
熱電対は、異なる種類の金属線を2本接合し、その両端に温度差が生じると電圧(熱起電力)が発生する「ゼーベック効果」を利用しています。
発生する電圧の大きさが温度差に比例するため、基準接点の温度が分かっていれば、測定接点の温度を求めることができます。K型(クロメル-アルメル)、J型(鉄-コンスタンタン)、T型(銅-コンスタンタン)など、使用する金属の組み合わせによって測定範囲や精度が異なります。
測温抵抗体
測温抵抗体は、金属の電気抵抗が温度によって変化する性質を利用した温度計です。
特に「白金測温抵抗体(Pt100など)」が広く用いられています。白金は温度に対する抵抗値の変化が安定しており、再現性が高いため、高精度な測定に適しています。抵抗値と温度の関係は非常に線形性が高く、正確な温度測定が可能です。
バイメタル式温度計
バイメタル式温度計は、熱膨張率の異なる2種類の金属板を貼り合わせた「バイメタル」を使用しています。
温度が変化すると、それぞれの金属の膨張率の違いにより、バイメタルが特定の方向に湾曲します。この湾曲の動きを指針に伝えることで温度を表示しています。
液体膨張式温度計(ガラス温度計)
液体膨張式温度計は、液体が温度変化によって体積を膨張・収縮させる性質を利用しています。
細いガラス管(毛細管)に封入された水銀やアルコールなどの液体が、温度上昇に伴い膨張して毛細管を上昇し、その液面の高さで温度を読み取ります。
半導体温度計(サーミスタ)
半導体温度計、特にサーミスタは、半導体の電気抵抗が温度によって大きく変化する性質を利用しています。
一般的なNTC(負特性)サーミスタは、温度が上昇すると電気抵抗が減少します。非常に感度が高く、小型で応答速度が速いため、家電製品や医療機器、精密機器などに広く利用されています。
非接触型温度計の測定原理
非接触型温度計は、測定対象に直接触れることなく、その物体から放射されるエネルギーを検出して温度を測定します。主な非接触型温度計の測定原理は以下の通りです。
放射温度計(赤外線温度計)
放射温度計は、全ての物体がその温度に応じた赤外線エネルギーを放射しているという原理(ステファン・ボルツマンの法則)を利用しています。
物体から放射される赤外線エネルギーの量をセンサーで検出し、その強度から表面温度を算出します。高温の物体や、動いている物体、触れることができない物体などの温度測定に適しています。
サーモグラフィ
サーモグラフィは、放射温度計の原理を応用し、測定対象から放射される赤外線エネルギーを検出して、温度分布を可視化(画像化)する装置です。
温度の高い部分は明るく、低い部分は暗く表示されるなど、色の違いで温度差を表現します。これにより、広範囲の温度異常や熱漏れなどを瞬時に把握することができ、設備の点検や建築物の診断、医療など多岐にわたる分野で活用されています。
3. 【用途別】業務用温度計の選び方
業務用温度計を選ぶ際は、測定対象や環境、必要な機能、そしてコストを総合的に考慮することが重要です。適切な温度計を選ぶことで、測定の信頼性を高め、作業効率や品質管理を向上させることができます。
測定対象と測定範囲による選び方
まず、何を、どのくらいの温度範囲で測定するのかを明確にすることが、適切な温度計選びの第一歩です。
測定対象の物理的状態と測定方式
測定対象が液体、気体、固体表面のいずれかによって、適した温度計のタイプが異なります。
測定対象 | 適した温度計の種類・方式 | 主な用途例 |
---|---|---|
液体・半固体(内部温度) | 浸漬型(プローブ型) (例:熱電対、測温抵抗体、サーミスタ) |
食品の調理温度、薬品の反応温度、液体の品質管理 |
気体(空間・ダクト内) | 空間測定用、ダクト用 (例:熱電対、測温抵抗体、サーミスタ) |
冷蔵庫・冷凍庫内、空調設備、クリーンルーム、工場内の環境温度 |
固体表面 | 非接触型(放射温度計)、表面測定用プローブ (例:熱電対) |
機械部品、電気設備、路面、食品表面、調理器具 |
特に食品業界では、中心温度測定に浸漬型、加熱調理品の表面温度に非接触型が使い分けられます。
必要な測定範囲と精度
測定する温度の最低値から最高値までをカバーできる範囲を持つ温度計を選びましょう。また、どの程度の精度が必要かによって、選択肢が絞られます。
低温域(-50℃以下)の場合:冷凍庫、液体窒素など。白金測温抵抗体、熱電対など。
中温域(-50℃~400℃程度)の場合:食品、一般環境、厨房など。サーミスタ、熱電対、白金測温抵抗体など。
高温域(400℃以上)の場合:炉内、金属加工など。熱電対、放射温度計など。
設置環境と耐久性による選び方
温度計を使用する環境は多岐にわたります。その環境に耐えうる耐久性や適切な設置方法を持つ製品を選ぶことが、長期的な運用には欠かせません。
環境条件への適合性
水濡れ、粉塵、油、薬品、振動、衝撃など、使用環境に特有のリスクを考慮する必要があります。
防水・防塵性能:厨房や屋外、高湿度環境では、IPコード(国際電気標準会議が定める保護等級)を確認し、必要な防水・防塵性能を持つ温度計がおすすめ。
耐薬品性:化学薬品を取り扱う場所では、プローブや本体の材質が測定対象や周囲の薬品に耐えられるかを確認することが必須。
耐振動性・耐衝撃性:機械設備への組み込みや、持ち運びが多い環境では、振動や衝撃に強い設計の製品を選ぶことが重要。
防爆性:可燃性のガスや粉塵が存在する危険場所では、防爆構造の温度計の選定が必須。
設置方法とプローブの形状
温度計の設置方法やプローブの形状は、作業効率や測定の安定性に影響します。
常に同じ場所の温度を測定する場合には固定設置型が適しており、一方で複数の場所へ移動しながら測定する必要がある場合はポータブル型が便利です。
プローブの形状にはいくつか種類があります。ストレート型は液体や半固体の中心温度測定に汎用的に使用され、L字型は鍋やタンクの縁に引っ掛けて使用するのに便利です。また、狭い場所や曲がった場所の測定にはフレキシブル型が適しており、平面に接触させて表面温度を測る場合には表面測定用のプローブが用いられます。
4. まとめ:適切な温度計を選ぼう
温度計は、製品の品質管理、食品の安全確保、設備の効率運用など、多岐にわたる業務用途において不可欠な役割を担っています。
最適な温度計を選定するためには、測定対象や測定範囲、設置環境、必要な機能、そしてコストパフォーマンスを総合的に考慮することが極めて重要です。
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